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新版 山スキー・テレマーク・クロカンはどう違う?
2006年改定 西田 進


山スキーとテレマークスキーとクロスカントリースキーは、どのように違うのかという質問を時々耳にします。 これらの違いを、「用具」を中心に分かりやすく説明しましょう。

なお、この記事はクラシックスキークラブのホームページに投稿したものを転載しました。



山スキーは、いろいろな意味に使われます。
 @雪山をスキーでツアーすること
 Aアルペン・ツアースキーという用具
 B谷スキーに対して山スキー
ここでは、Aの意味に使います。 正しくはアルペン・ツアースキー
というべきですが、簡単には山スキーと呼びます。

山スキーの特徴は、登るときには踵を上げることができ(ヒールフリー)、滑るときには踵を固定することができるということです。 登るとき踵が上がるので歩行が容易になります。滑るときに踵が固定されるので、ゲレンデのスキー(アルペンスキー)と同じ方法で滑ることができます。

山スキーの楽しみ方は、もっぱらオフピステの山に登って滑ることです。


テレマークスキー(TMスキー)は、ノルウェーのテレマーク地方で19世紀に完成されたスキー用具です。 それが、1970年頃にアメリカのコロラドで自然回帰の機運の中で近代スポーツとして再生しました。

テレマークスキーの特徴は、登るときも滑るときも踵が固定されない(ヒールフリー)ということです。 登るときはいいのですが、滑るときにも踵が固定されないので、両足を揃えるアルペン姿勢で滑ると前傾したときに前に転びます。 そこで、2本の板を前後させる独特のテレマーク姿勢で滑ります。 この技術はちょっと難しいのですが、一旦習得するとターンすることが楽しくなります。 いつも踵がフリーだという自由さが、用具の軽さと相まって、素晴らしい解放感を味わえます。

登るときにヒールフリーである点は、山スキーもテレマークスキーも同じです。 しかし、山スキーではつま先をピボットとして踵を上げるロボット的な歩行になるのに対し、テレマークでは靴裏のベンドによる自然な歩行が可能です。 これがテレマ−クの歩行・登行の快適さになるのでしょう。

テレマークスキーの楽しみ方は、山スキーと同様、オフピステの山に登り滑ることですが、山スキーと異なり雪原散歩にも適します。


クロスカントリースキー(XCスキー、略称クロカン)は、北欧では国民的スポーツです。 フィンランドでは、両側に往復でXCスキー用のトラックが切られた道が、山の中にも村の中にも縦横に走っています。 スノーモービルの道路とは立体交差になっており、XCスキーの市民権には驚きます。

クロスカントリースキーの特徴は、テレマークスキーと同様、常時ヒールフリーですが、板幅が狭く、通常エッジがないため、滑降には適しません。 もっぱら平地の滑走です。 したがって歩くスキー
とも呼ばれます。 楽しみ方は、距離競技や雪原散歩です。

山スキー・大日岳(岳人より)
 
テレマークスキー・剣沢(山と渓谷より)
 
クロスカントリースキー・小田代が原
(山と渓谷より)

各種のスキーの比較(代表的なもの) 日本スキー学会講演より(2001年)


山スキーの用具

スキー板
山スキーの板
山スキーの締具(ジルブレッタ)
山スキーの登行・歩行時
山スキーの滑降時
山スキー用の兼用靴は登山にも使える
ステップイン方式の締具(ディアミール)
山スキーの板は、基本的にはゲレンデ用のアルペンスキーの板と同じですが、ツアーで使用するので、次の点で多少異なります。

軽量であること
ゲレンデ用のスキー板は、リフトの使用を前提にした重い板が多いのですが、ツアーではリフトがありませんので、軽いことが第一です。

カービングが強くないこと
ツアーでは、「制動を利かせたずれターン」や「横滑り」をしばしば行いますので、カービングの強い板は不向きです。

シール装着の容易なもの
山スキー用の板にはシールの装着のための仕組みが作られています。 また、橇にしたときの紐孔がスキートップに明けられたものもあります。 必ずしも必要ではありませんが、あれば便利です。

結局、軽量で、長さは短め、幅は広め、カービングは強くない板が、最適です。 カービングになる前の軽い古いアルペンの板をお持ちの方は、締具だけ山スキー用に替えれば、板を買わずにすみます。
 
締具バインディング
山スキーの締具の特徴は、登るときには踵が上がり(ヒールフリー)、滑るときには踵が固定されることです。 かつては着脱は不便だが堅牢な形式(ジルブレッタなど)のものが多かったのですが、最近はゲレンデの締具と同様ステップイン形式(ディアミールなど)のものが増えました。 初期のステップイン形式のものは耐久性に問題がありましたが、今は解決されているでしょう。 ショップでよく相談して選びましょう。

山スキー用の締具には、急傾斜を登るときにハイヒールのように踵を高くする仕組み(クライミングサポート)が付いています。
 
靴(ブーツ)
かつては山スキーは皮製の登山靴で滑りましたが、今ではプラスティックの兼用靴(登山とスキーの兼用)が一般的です。 山スキーにアルペンのスキー靴を使う人もいますが、ツアーではスキーを脱いでつぼ足で歩く場合がありますので、アルペンのスキー靴は危険です。

兼用靴には、モード切替があり、滑降時には前傾位置になり、登高・歩行時には多少屈曲可能になります。
 
ポール(ストック)
テレマークスキー用のポールの説明を参考にして下さい。
 
シール
テレマークスキー用のシールの説明を参考にして下さい。
 


テレマークスキーの用具

スキー板
テレマークのフラットソール板
テレマークのカットソール板
一般には、幅狭く、長く、軽量
テレマークのカットソール板の滑走面
写真の中央から右側にカットがある
テレマークの3ピン式締具
テレマークの3ピン式締具と靴
つま先だけで締めている
テレマークのケーブル式締具
テレマークのケーブル式締具と靴
つま先と踵で締めている
テレマーク用靴
3ピン式締具とケーブル式締具に共用できる
テレマーク・山スキー用ポール
テレマーク・山スキー用シール
テレマークスキーの板にはいろいろな種類がありますが、大きく分けると次の2種類になります。 共通点はエッジ付であることです。

フラットソール板
アルペンの板のように滑走面が滑らかなものです。 滑走性能はいいのですが、登るときにはシールを装着する必要があります。

カットソール板
滑走面の中央部に鱗状のカットが施されたものです。 板は弓なりに反っており(このような板をダブルキャンバーまたはダブルベンドといいます)、荷重したときに鱗面が雪に接します。 ダブルキャンバーと鱗のお蔭で、滑るときには抵抗が少なく、登るときには後ずさりをしません。 緩斜面ならシールなしで登れます。 アップダウンの多い高原ツアーに便利です。

テレマークスキーを始めてやる人には、フラットソール板がお薦めです。 滑りやすいからです。初心者の板選びで、もう1つ大切なことは板の幅です。 スキーは一般に板の幅が広いほど安定するので、幅の狭い板は避けましょう。 幅が広ければその分短くてすみます。(面積が同じ!) 幅が広くても重い板は、山を登るときに困ります。 軽い板を選びましょう。

カービングになる前の軽いアルペンの板をお持ちの方は、締具だけテレマーク用に替えれば、板を買わずにすみます。 小生は、軽い山スキー板にテレマークの締具をつけて使用しています。
 
締具バインディング
テレマークスキーの締具の特徴は登るときも滑るときも踵が上がる(ヒールフリー)であることです。 形式は、大きく分けると次の2種類になります。

ピン式
靴のつま先だけ止める方式です。 軽量で安価ですが、靴裏の3つの穴が崩れやすく耐久性にかけます。 カットソール板と組み合わせて軽装な高原ツアーには魅力的ですが、初心者にはお薦めできません。

ケーブル式
靴の踵にケーブルをかけて止める方式です。 多少重いですが、しっくり感がよく、耐久性があります。 最近は大半がケーブル式になりました。
 
靴(ブーツ)
テレマークスキーの靴は、かつては皮製しかありませんでしたが、今では皮靴は「こだわりの人」だけが使っています。 一般にはプラスティック製を購入します。 締具には2つの方式がありますが、靴は共通です。

上級者用(レース
硬めで深めです。滑降性能を重視しており、登るのには適していません。 熱加工で足型にフィットさせることができるものもあります。

一般者用(ツアー向)
柔らかめで浅めです。登るのに適しており、滑降性能もそこそこです。 最近女性用に熱加工で足型にフィットさせることのできるものが発売されました。
 
ポール(ストック)
テレマークだからといって特別のポールがあるわけではありません。 練習にはゲレンデ用で十分です。 ただし、ツアーのときには、ツアー用のポールが便利です。 違う点は2つ。 長さが調整できること、リングが大きいことです。

ポールの長さは、登るときには長めに、滑るときには短めに調整します。 圧雪されたゲレンデではポールのリングは小さくていいのですが、オフピステの深雪では大きくないと埋もれて役に立ちません。 ツアーに出るようになったら購入しましょう。
 
シール
スキーで登るときに使用するものです。 かつてはアザラシの毛皮を使用したのでこの名がありますが、正しくはクライミングスキンといいます。

現在のシールは、ナイロンやモヘヤを人工シートの上に一方向に斜めに植毛したものです。 シートの毛のない側に「再使用可能な粘着剤」が塗布してあって、スキーの滑走面に貼り付けて登行時に使用します。 登行時に、足を前に出すときは毛が滑らかな方向ですので抵抗が少なく、踏ん張るときには毛羽立って後ずさりしません。

以前の幅の狭い板のときは一定幅のシールでよかったのですが、最近の極端なカービングスキー板では、板の形に合せてシールを加工することが必要です。


クロスカントリースキーの用具

スキー板
クロスカントリースキー板
クロスカントリースキー板の滑走面
カットソールでエッジなしのもの
クロスカントリースキー板と締具と靴
クロスカントリースキー用の靴
クロスカントリースキー用のポール
クロスカントリースキーの板には、実にいろいろな種類がありますが、大きく分けると次の種類になります。

フラットソールでエッジなしの板
最も軽量で、レース用です。 レース場に作られたトラックの上を走ったり、スケーティングするのに使用します。 オフピステを歩き回ったり、斜面の滑降には適していません。

カットソールでエッジなしの板
滑走面に鱗状のカットが施されたものです。 鱗の役割はテレマークのカットソール板の場合と同じです。 この板はスケーティングをしなくても多少登れますので、初心者向きといってもいいでしょう。 「フラットソールでエッジなしの板」と同様、斜面の滑降には適していません。

カットソールでエッジ付きの板
滑走面に鱗状のカットが施された、やや幅広の板にエッジが付いています。 テレマークの「カットソール板」に近いものです。 違いは締具がクロカン用であることです。 テレマークの「カットソール板」と同様、高原ツアー向きです。 最近流行のネイチャースキーには、この種の板を使用するものがあります。
 
締具バインディング
クロスカントリースキーの締具には、いくつかの規格があります。 スキーの目的を自分で決めて、ショップに相談して購入しましょう。
 
靴(ブーツ)
クロスカントリースキーの靴にはいくつかの規格があり、締具の規格に合せる必要があります。 テレマークの靴のように規格間の共用はできませんので、ご注意下さい。
 
ポール(ストック)
クロスカントリー競技には、長くて、水掻き型のリングの付いたクロスカントリースキー専用のポールを使用します。 長さは滑走法と関係がありますので、ショップに相談して購入しましょう。 雪原散歩なら、クロカン用よりもゲレンデ用や山スキー用のポールの方が便利でしょう。

* テレマークスキーを始めてなさる方は、講習会場で用具のレンタルされることを、お勧めします。   


山スキー、テレマークスキー、クロスカントリースキーの店

主に登山用具店が扱っています。 スキー量販店では扱っていないところが多いようです。

首都圏で扱っている店

カラファテ(目白)、  ICI石井(新大久保他)、 タマキスポーツ(神田)、など



テレマークスキーについて詳しいことを知りたい方に

日本スキー学会発表の拙稿 「中高年スポーツとしてのテレマークスキーについての考察」
日本テレマークスキー協会(TAJ)のホームページ